世界観

とある知人から、こんな話を聞いた。

その知人にはとても好きな洋服ブランドがあったのだが、その直営店舗が都市計画に引っかかったか何かで移転するはずが、そのまま諸事情により閉店しまったのだという。

もちろん都市部へ行けば、本店はもとよりちゃんとした
直営店もあるので買えないわけではないが、そう易々と都市部にも行けないので困ってたところ、

ふとしたことからそれほど遠くないところにそのブランドを取り扱うセレクトショップがあるのを知ったそうだ。

セレクトショップとはご存知のとおり小売店の形態の一種で、特定のブランドだけでなく、独自のコンセプトで選んだ商品を陳列・販売している店舗のことだ。

知人はそのセレクトショップへ足を運び、大好きなそのブランドを買い求めに心躍る気持ちで訪れたのだが、そこには数点のそれと姉妹ブランドの一部が置いてあるだけだった。

セレクトショップはブランド直営店と異なり本店の仕入拘束がほとんど無いために、複数ブランドの商品を取り扱うことが可能であるが、そのオーナーやバイヤーのセンスが、店舗の運営に非常に重要な役割を果たすのである。

ブランドメーカーは世界観をこそ最も大切にしなければいけない。

例えば、貴方にとても大好きなブランドがあるとしよう。

そのブランドはとても自身の世界観を大切にしているブランドだ。

その商品のみならず販売スタイルや展示方法も独自で、さらには店舗そのものにブランドの想いが強く表現されている。

そんな強烈な世界観を持ったブランド。

貴方はそんなブランドを購入するときに店員の接客スタイルや佇まいにブランドのブランドたるを知る。

店内には貴方を圧倒するプロダクトの数々。

店舗の全てがブランドのイメージを具現化してくれる。

人はモノを買うには、ただモノを買うだけでなく、そのモノが持つ背景を買うことがある。

その背景とはそのブランドが持つ世界観と言い替えてもいい。

そんな世界観に惚れ込んだ貴方のそのブランドが、無下に扱われたとしたら、貴方はどう思うだろうか。

その世界観など関係なく丸裸にされたその商品を見て、知人は寂しく思ったそうだ。大好きなそのブランドが悲しく扱われていると感じたのだそうだ。

セレクトショップの店員は追い打ちをかけるようにこう言ってきた。

「言って戴ければ少しお安くしますよ。」

誰しもが、安くモノを買いたいと思うのは当たり前だ。

知人はもちろん何も買わずにそのセレクトショップを後にした。

安く買えるのは誰でも嬉しい。が、知人はそれ以上にそのブランドの世界観に惚れ込んでいた。その世界観を演出出来ないお店でそのブランドを購入してもちっとも嬉しくないということなのだろう。

買い物には２種類ある。ひとつは満足型でもうひとつが感動型。

満足型は、これと思う商品を少しでも安く、少しでも早く買いたいと思うスタイル。

感動型は、見た事がない、想像だにしなかった事に心動かされ、雰囲気重視で購入するスタイル。

買い物スタイルのいずれも否定するわけでないが、ただブランドたるのも、感動型のお買い物を、少しでも体感して頂けるよう演出する努力をし続けなければ、つまりは世界観を大切にしなければ、そのブランドはもはやブランドでもなんでもない。

ブランドは世界観こそが大切なのだ。

そんな当たり前な事を、その知人から教えてもらったような気持ちがした。

ＳＮＡＰ-ＳＨＯＴ！